フォークランド諸島は、アルゼンチンの東にある、イギリス領の島々です。スペイン語では、マルビナス諸島といいます。
諸島合わせて長野県くらいの大きさしかなく、人口も3000人しかいません。
南米にありながら英語圏で、通貨はイギリスポンドです。フォークランド紛争の記憶も新しいように、近接国のアルゼンチンとは仲がよろしくないという背景もあります。
ここは、ガラパゴス諸島に匹敵する鳥の営巣地でもあり、ゾウアザラシやアシカなどの海棲哺乳類も見られ、南極への観光船が寄港することも多い島々です。

2005年1月28日〜2月7日

私たちは、成田からアメリカのアトランタ乗り継ぎで、チリのサンチャゴへ向かいました。ここで一泊して、翌日、フォークランドの首都スタンリーへ行きます。入国審査でチェックされるのは、健康状態と保険加入状況です。整備された病院がないからで、なるほど怪我や病気に気をつけなくてはと、改めて緊張します。
このスタンリーでもペンギンを見ることができますが、後回しにして、私たちは翌日、小さな飛行機でシーライオン島へ飛びました。
シーライオン島には小さなロッジがひとつだけあり、そこに泊まってウォッチ三昧の4日間を過ごしました。
この島には、ミナミゾウアザラシ・ジェンツーペンギン・イワトビペンギン・マゼランペンギン・ハナコブウのコロニーがあり、マカロニペンギン・カラカラ・オイスターキャッチャー・グースも見られます。どのコロニーへもロッジから歩いていけるので、気の向くままに好きなところに行って、心ゆくまで観察できます。それぞれが勝手に動いても、人間同士でバッティングすることがほとんどありません。生きものに○メートル以上近付かないなどのウォッチルールを守りさえすれば、あとは食事時間までに帰るだけです。なんて贅沢なウォッチング!!
ここでの私の一番のお気に入りは、ミナミゾウアザラシでした。ビーチにごろごろ横たわってる彼らの近くに座って、ずーっと彼らを眺めてました。
大きな鼻のボスは、メスにちょっかい出したり他のオスを警戒したりと、なかなか忙しいです。眠ってるようでも、片目を薄くあけてあたりを伺い、油断はしていません。
若オスは、ちょっと離れたところでおとなしくしてるけど、ボスの隙を見てメスに近づいては、気付いたボスに追われて、ブーブー言いながら慌てて逃げていきます。
興奮したボスがその勢いのまま、八つ当たり気味に他のアザラシにもかかっていき、ついでにそばの人間にも向かってくるので、こちらも泡を食って逃げ出します。
メスは、時たまボスに襲われて悲鳴を上げ、その横でベビーがおろおろしてます。ボスがあきらめて去ると、やれやれと横になって泣いているベビーにおっぱいをあげてます。
かと思うと、幼稚園?みたいに子アザラシたちが水たまりに集まって、じゃれ合ってます。
近くで飽かず眺めてる私をどう思ったのか、小さい子アザラシが、少しづつ近づいてきました。大きな眼をくりくりさせて、私を見上げます。そのまま動かずにいると、そーっと鼻面を私の手に押しつけてきました。そして、もう一度、ぐぐっと押してきます。そこで、私も脅かさないよう、ゆっくりと相手に手のひらを見せるようにしながら、そっと鼻を触りました。じっと互いの眼を見つめ合う不思議な時間です・・・。
こちらが触れるのを許してくれる野生生物はまれにいますが、向こうから触ってきたのは、私にとって初めての体験でした。
それぞれ個性のあるアザラシたちをいつまでも見ていたいけど、ここには他にも見逃せないいきものがたくさんいます。
ジェンツーペンギンは、石をくわえて巣をつくってます。
私が歩いていると、向こうからトコトコやって来て、ふっと私を見て停まります。知らん顔してると、ま、いいか、と、トコトコ横を通過していきます。羽をちょっと広げて、身体を揺すって、小さなオジサンみたいな後ろ姿です。
マゼランペンギンが、海へ降りようとして、行ったり来たり迷ってます。ウロウロしてるうちに、同じような仲間がどんどん増えていき、20羽くらいになってもまだ、あっちへ行こうかこっちにしようか、決心がつかないでいます。縦一列になって坂を下りかけては停まってしまい、後ろのペンギンがぶつかってこけたり、ぶつかられてよろめいたペンギンが振り向きざまクチバシをあけて文句を言ったり、それで言われた方がまた慌てて滑ったり、まるでドリフターズのコントみたい。大騒ぎしながら、なんとかかんとかようやく海にたどり着いた彼らに、ハラハラ見ていたこちらもほっと一息です。でもねぇ、このペンギンたちったら、そうしてやっと海に泳いで行ったのに、すぐまた岸に戻って来ちゃったのですよねぇ。全く、何を考えてるのかしら。
イワトビペンギンは、夫婦で交代しながら、大事そうに卵を抱えてます。お腹が空いてるだろうから、交代したらさっさと海に餌を獲りに行けばいいものを、すぐ横でじーっと離れがたそうに連れ合いと卵を見ています。そんなとき他のペンギンが側を通ると、頭の毛を逆立て眼を吊り上げて威嚇し、卵を守ります。
イワトビのコロニーの中には、一回り大きいマカロニペンギンが数羽混じっていて、それぞれがちょっぴり居心地悪そうに、もじもじと小さなイワトビの間を動き回ってました。
カラカラ(猛禽類)は、そんなペンギンたちを夢中で見ている私たちの後ろで、いつのまにか置いてある荷物をつついてます。クチバシは思いのほか力があるようで、気がついたらリュックに付いてる磁石を引きちぎってました。悪戯好きのカラカラも、ヒナを連れてるときは優しくリードしてました。
シーライオン島でのウォッチを満喫して、首都スタンリーに戻りました。
ここにもペンギンたちのコロニーがあります。さすがに歩いていける距離ではなく、宿のオーナーが車で連れて行ってくれます。
2時間ほど走ったところにあるイワトビペンギンのコロニーは、強風が吹き荒れていて、海ははるか下なのに、潮が舞い上がってます。風上にカメラを向けると、あおられてブルブル震えて撮りにくいし、1回シャッターを切るごとにレンズについた潮を拭かなくてはならないほどです。
それでも、たっぷり5時間も腰を落ち着けていられます。皆、時間を気にせず、あっちこっちのペンギンやトリたちをゆっくり観察してました。
岩の上のペンギンコロニーの近くには、オタリアもいました。藪から大きな黒い頭を突き出して、周りを睥睨してます。用足しするときはどうしても藪の中に入りたくなるので(あ、もちろん、トイレなんてありません)、オタリアに注意するよう言われます。なので、いざそのときは賑やかに音を立てながら、恐る恐る藪に入っていきます。
翌日訪れたキングペンギンのコロニーでは、茶色のモコモコのヒナも、白い羽が生え替わりかけてるヤングもいました。茶色と白がマダラになってる、化け損ねちゃった?みたいなヤツも。
茶色のヒナは、羽がふっくらしてぬいぐるみみたいな体つきのくせに、目付きがやけに鋭いです。好奇心旺盛で、座ってるこちらにぐいぐい近づいてきて、靴紐を囓ったりパンツの裾を引っ張ったり果敢に攻撃してきます。
1メートルにもなるアダルトペンギンたちは、白い羽毛が日に輝いてつやつやしてます。数羽づつがまとまって海へ出かけたり、また戻ってきたり。周りを見回したりゆったり歩いたり考えこんでたり、体が大きなぶん、より人間っぽい動きです。
キングペンギンの間を縫って小柄なジェンツーペンギンも、あっちへ歩いたりこっちへ動いたり。濡れた砂浜に、逆さ富士ならぬ逆さペンギン状態に映って、綺麗です。
眺めてるうちに、ペンギンたちがざわつきだし、一斉に集まりはじめました。何事かと思ったら、一天俄にかき曇り、風が強く吹きつけ、なんと雹が降ってきました。遅ればせながら天候の変化に気付いた人間たちも、慌ててシェルターに避難します。
やがて黒雲が去ると、またペンギンたちはわいわいお喋りしながら散らばっていき、人間もそれを追うように動き出しました。
ここでも私たちは、キングの育ち具合が異なるヒナのコロニーを次々回ったり、浜へ降りてジェンツーを見たり、またキングに戻ったり、時間に追われず、のんびり気ままにウォッチを堪能しました。
スタンリーではイロワケイルカのツアーも予定してたのだけど、残念ながら海況が悪くて欠航でした。
とにかく風が強く天候も変わりやすく、なかなかハードな環境とも言えます。

日本からでは往復にも日数がかかる遠いところですが、それだけの価値がある、ぜひとも再訪したい、充実した生きものウォッチの諸島でした。