クイーンシャーロット諸島はカナダ本土の西にあり、美しい自然に囲まれた島々です。
以前はネイティブカナディアンのハイダ族が住んでましたが、19世紀の終わり頃、ヨーロッパ人が持ち込んだ天然痘が流行して多くの住民が死亡しました。生き残った人々も部落を捨てざるを得ず、移住していきました。
今でも、いくつかの島にそのときのトーテムポ2004ールが残っています。彼らハイダ族は、このトーテムポールを修復はせず、このまま自然に朽ち果てさせることを選びました。ウォッチマンと呼ばれるハイダの末裔たちが、その自然に戻っていく様子を見守っています。
今、この一帯は自然公園になっていて、観光客の立ち入りは制限されてます。観光で訪れるときは入園料を払い、泊まりがけのゾディアックボートツアーかシーカヤックツアーに参加することになります。
私たちは、現地のツアー会社に4泊5日のボートツアーを組んでもらいました。日本からだと、バンクーバーで乗換えてサンドスピットで一泊、その翌日からのクイーンシャーロット諸島巡りです。

2004年6月7日〜11日

7時30分、ガイドのダレンが宿まで迎えに来てくれました。
サンドスピットの街から車で1時間半ほど走った入り江で、いよいよゾディアックボートに乗り込みます。防寒用のごつい合羽を着込み、長靴を履きます。毛糸の帽子をかぶってサングラスをしてライフジャケットもはおり、なかなか怪しいスタイルです。でも実際にボートが走り出すと、スピードのせいもあって身を切るような冷たい風を受け、もっと着込めば良かったと思っちゃいました。
ツアーでは、島へ上陸しては温帯雨林を散策します。あちこちに、昔の住居跡や作業場跡があります。場所によって景色は多少異なりますが、どこを歩いても木々の緑が実に鮮やかです。猛々しく生存競争してる印象の熱帯雨林と異なり、温帯雨林はしっとりとして、なんて穏やかな雰囲気なのでしょう。ただそこにいるだけで、それはそれは心地よいのです。
木の間から射し込む光もきれいです。樹上には松ぼっくりを囓っているリスがいるし、私たちと同じようにゆっくり歩きまわってるシカもいます。シカは、私たちに気付くとちょっと立ち止まりましたが、こちらに害意がないと知ると、草をはみながらそのまま歩き続けます。上陸した浜でランチをとっていたら、アライグマが現れて波打ち際で貝を洗ってました。
ハイダ族の住居跡を訪れると、そこのウォッチマンがいろいろ解説してくれます。トーテムポールは思いのほか大きく、そしてたくさんありました。傾いたり朽ちたり苔むしたりしてますが、それぞれに、遠い昔それをつくった人たちの思いや祈りを感じます。
そこここに見られる巨木は、まるで岩のようなごつごつした木肌です。ひとりではとても抱えきれない太さで、さて、いったい何人の手を繋げばぐるっと一回りできるでしょうか。でももちろん、この巨木も、芽生えたばかりのごく小さい頃もあったはずで、若木だった時代も経て、今ここに至った樹齢を想像すると、気が遠くなるようなその長さに呆然としてしまいます。そんなずっとずっと昔も、やはり今と同じように、リスやシカがこの回りにいたのでしょうか。そのときの人々は、いったいどんな姿で、何を考えていたのでしょうか。長い長い時の流れを、しみじみ感じてしまう林です。
さて、走るボートからもいろいろな生きものを見られます。ステラシーライオンのコロニーでは数十頭の群が賑やかに鳴き交わしていて、好奇心の強い数頭がボートに寄ってきます。首を長く水面上に突きだしては、こちらを観察しています。どのシーライオンも活発に動き回るし、騒々しいくらいに賑やかです。
岩の上で休憩しているアザラシもよく見ますが、彼らはやや臆病で、ボートに気付くと、脅えて海に飛び込んでしまいます。なので、ボートもあまり近づかないようにしてました。
思いがけずシャチにも遭いました。カナダでよくウォッチの対象となってるレジデント(定住性)の群ではなく、広い範囲を回遊しているトランジット(回遊性)の群です。サーモンを主な餌とする前者と違って、アザラシやイルカを餌として、より攻撃的といわれます。
私たちが遭遇したのは、背ビレの高い成熟雄や子どもを含む7頭の群でした。彼らはぐんぐん進んで、アザラシのコロニーを目指していました。そして、コロニーの前をしばらく行ったり来たりしてましたが、おや、と思ったときにはもう、その口にアザラシをくわえてました。シャチのハンティングというと、大仰に襲ってみせたり獲物を振り回して遊んだりというドラマチックな図を想像していましたが、実際にはとてもシンプルであっという間の出来事でした。なるほど、普段の食事はこうして淡々と行われるのかと、つくづく感じました。
シャチがブリーチするとその白い模様がくっきり見えましたし、テールで水面を何回も叩くシャチもいました。1頭は、停まってるゾディアックボートに興味を持ったのか、すぐそばまで近づいてきたので、緑の水面下に黒い太い胴が見えました。もしこの空腹なシャチが私たちに気付いていて、このボートをひっくり返そうとするか乗り上がってきたらと想像すると、あまりいい気持ちはしませんでした。だって、そのちょっと前に、アザラシめがけて岩の上に跳び上がることもあると聞いたばかりでしたから。でも、幸い私たちが襲われることもなく、やがて、食事をすませただろうシャチの群は、方向を変えて沖へ泳ぎ去っていきました。
また、このあたりではアラスカへ向かう途中のザトウクジラも見られます。多いときには、回りに数頭のブローが見られました。親子で並んで浮上したり、揃って鮮やかなブリーチを披露したり、小笠原で見慣れている姿も、別の海で見ると新鮮です。中には、アラスカまで行くのをやめてここで夏を過ごしてしまうザトウもいるとのことでした。
ゾディアックボートに乗るだけでなく、ツアー中にはシーカヤックもやってみました。穏やかな水路でカヤックを漕ぐと、目線の高さも、また景色の通り過ぎる速度もボートとは異なります。岸から海に突きだしてる木の下をくぐって漕ぐのも面白いです。疲れたらパドルを止めてしばらく漂い、また漕ぎだして、それぞれ気ままに楽しめます。
温泉の出る島もあり、ツアーの途中でちょっと一風呂浴びるなんてこともできます。3つある露天風呂はそれぞれが素晴らしい眺めです。海を見下ろしながら、ちょっと熱めのお湯に浸ります。水着で入るので、男女一緒にお喋りしながら、くつろぎのひとときです。
岩場で釣り糸を垂らすと、たちまち大きなハタが釣れてしまいました。もう一度下ろしたら、今度はカサゴが上がってきます。なんて簡単なのでしょう。でも、大きすぎるといって2度目の魚はリリースしてました。大味なのでしょうか?
籠を使って捕ったのはボタンエビに似た赤いエビで、とても美味しいです。生で食べたり茹でたりニンニクバターで炒めたり、いろいろやってみましたけど、どれもイケます。次々と手が伸びて、お皿にてんこ盛りのエビもすぐになくなってしまいます。エビ以外にはカニやウニのお寿司もあり、日本人には幸せな食生活でした。のみならず、シカのステーキもサーモンステーキも、燻製にした白身魚もとても美味でした。
泊まるのは、夏の期間だけ入り江に浮かべたフローティングハウスです。客用寝室が3部屋にダイニングルームとスタッフの部屋があります。シャワーはなく、トイレはたまたま壊れていて、用を足した後はバケツの海水を流す仕組みでした。夜になると、そのバケツの水に夜光虫がきらきら光ります。便器に流すと、きらきら光りながら海に戻っていきます。そうしてからハウスの外で見上げると、同じようにきらきらと星々が光ってました。
日が長く、夜もなかなか暗くならないので、ついつい夜更かしをしてしまいます。ボートからハウスに戻り、ビールを飲みつつお喋りに花を咲かせてエビなどつまみ、サラダを食べて、メインのディナーにたどりつくと、もう10時です。食後にケーキをいただく頃には、さすがに外も暗くなります。気持ちよい酔いの中でぐっすり眠っては、翌日の朝食を美味しく頂いて、またボートツアーへ。

というわけで、4泊5日はあっというまでした。天候や生き物との遭遇に恵まれて、大満足のツアーでした。アラスカと似ていながら異なる自然も気に入り、ぜひ再訪したい場所となりました。