メキシコのコルテス海は、多くのイルカクジラたちに会える、世界でも有数のウォッチポイントです。
ずっと前からの行きたい想いがようやく実り、ラパスから出港するクルーズでの7日間をクジラ三昧で過ごしました。
出会った鯨類は、シロナガスクジラ・ニタリクジラ・ザトウクジラ・ミンククジラ・コビレゴンドウ・マイルカ・ハンドウイルカ・コマッコウの8種にのぼります。加えて、ジンベエザメとカリフォルニアシーライオン(アシカ)とのスノーケリング付きです。
期待に違わず、なんて盛りだくさんの贅沢な海でしょう!

2009年2月21日〜3月3日

クルーズ初日、出航するやいなや、湾内にジンベエザメが集まってるとの情報です。実を言うと、数年前アシカスイムにラパスを訪れたとき、「ジンベエにも遭いたい」と希望したのにもかかわらず、「最近は見ないねぇ」で終わってしまった相手です。
そのジンベエが、なんと、あっちにもこっちにもいます。20尾くらいが狭い海域で採餌中のようです。Whaleに遭う前に、まず、Whale Sharkです。
早速、水中に入ると、ジンベエはゆっくり水面を泳いでます。ヒトが近づいても全然気にしてないようで、そのまま泳ぎ続けます。あまりにも近すぎて触ってしまいそうだから、足を縮めたり手で掻いて方向を変えたり、こっちのほうがジタバタします。
横に並んで顔をまじまじ見ると、大きな丸い目はほとんど動きません。目も口も、フグみたい?それとも、マンボウかな? うーん、イルカのようには表情がなくて、こんなに近いのにコミュニケーションがとれないなぁ。
前から下から上から、間近なジンベエをじっくり観察できます。時間をかけて、結局、4〜5尾のジンベエにスイムしました。
泳いでるとき、ハンドウイルカ10頭の姿も見つけましたが、さすがにこちらは動きが早い。ボートで追ったけど、とても水中には入れない速さで、ウォッチだけで諦めました。
ジンベエスイムを終えてから、いよいよ本船は沖に走ります。
細長いコルテス海を北西に進むと、MAKOTOがフルークアップを見つけました。
うわ、いきなり、シロナガスだ!
世界最大の生きもの、憧れのシロナガスクジラです。そのブローは高く高く、体色は淡く、背ビレが小さく尖ってる。そしてペダンクル(尾の付けね)は太くて、フルークはシャープ。まさに、シロナガスクジラ・・・!
初めてのその大きさ、というか、細さ。ゆうゆうと呼吸を繰り返しては、やおら上げるフルークから流れ落ちる水のカーテンも幅が広いです。おお。どれもこれもに、感嘆です。彼らに遭いたくてはるばる来た甲斐がありました。
気がつくと、近くにはまた別のシロナガスもいて、次々にウォッチできます。
皆でデッキに並んで眺めてるうちに、日が傾いて、背景の島が赤く染まり、その前のシロナガスのフルークも赤みを帯びて輝きます。クルーがデッキにマルガリータとポテトチップを並べてくれて、それをつまみながら夕日を浴びるシロナガスをゆっくりウォッチする、なんて贅沢なのでしょう!!
翌日からも、充実したウォッチの日が続きます。
アシカのコロニーでは岩場にアシカたちがてんこもりに寝ていて、ペリカンやグンカンドリやカツオドリも群れなしてます。それぞれの声が賑やかで、そして臭いもなかなか強烈です。海面のあちらにもこちらにも、アシカの頭が浮いてます。
海に入ると、魚の大群が次々通っていき、その中や向こうにアシカが見えます。でっかいボスアシカが来たら、なるべく静かにおとなしくして見送ります。子アシカが近づいてきたら、誘ってみます。その誘いに乗ってくれるのは嬉しいけど、ぐるぐるぐるぐる猛烈なスピードで回るので、こちらは目が回りそう。行きかけては、何度も戻ってきます。でも、ときどき口を開けてハグハグするので、噛まれそうでちょっとコワイ。
1時間ほどそんなアシカスイムを楽しんでから、船に戻りました。
次には、マイルカの大群を発見しました。はるか遠くを、大きな群れがポーポイジングしながら移動してます。
皆、はしゃぎながらデッキに集合。船はイルカたちを追いかけます。まだ遠くだけど、次から次へとジャンプを繰り返してるイルカたちが、はっきり見えます。
行け行けー、早く追いつけー、とワクワクしてると・・・あら? 船の速度が落ちた?? そして、あらららら、船が向きを変えてしまいます。
どうやら、マイルカたちが早すぎて、追いつけないようです。うーむ・・・残念。
別の日に遭ったマイルカの群は近くを泳いでくれましたけど、それでもやはり速くて、撮れた写真はやや後ろからのものばかり。どうやら、船を囲んで船首波に乗るような気分ではなかったらしい。美しいマイルカたちには、もっとゆっくりその姿を見せて欲しかったなぁ。
コビレゴンドウの群は、船を囲んで併走してくれました。
その中の雄が、口に何やら白いものをくわえてます。サカナを食べてる途中かとよくよく観察すると、なんと、コビレゴンドウの赤んぼうの死体でした。死んでから数日は経ってるのでしょう、皮膚がところどころ剥げて白くなってるのです。雄のゴンドウが、何故赤んぼうをくわえているのでしょう?
しばらく船の周りを泳いでいたゴンドウたちですが、やがて、次々潜っていきました。残ったのは、例の赤んぼうをくわえたゴンドウです。
私たちが注視してる中、彼は止まり、そして、くわえてた死体を放しました。しばらく、そのままじっと死体を見ています。気付くと、彼の横にもう1頭、やや小柄なゴンドウが寄り添ってます。揃って死体を見つめては、そっと近づいて押すような仕草もします。
どれくらいの時間、そうしていたのでしょうか、やがて雄はもう一度死体をくわえなおし、もう1頭と並んでゆっくり潜っていきました。
彼らが何をしていたのかは、わかりません。でも、見ていた私たちは、皆同じ印象を抱きました。夫婦のゴンドウが早世した赤んぼうを悼んでいたとしか思えなかったのです。2頭のゴンドウの様子を見守っていた間、私たちの誰もがシャッターを切るのを止めて、彼らと共にその赤んぼうの死を悼んでいたのでした。
さて、コルテス海はオキアミの多い採餌海域で、クジラたちの動きも他の海域とだいぶ違いました。
ミンククジラは、小柄で尾も上げず、いつもは地味であまり目立たないのですけど、ここでは、ザバッと勢い良く水面に浮上して、1ブローすると、背中をぐっと曲げてそのまま潜っていきました。その動きのなんて力強く素早いこと。いつもの大人しいミンクと同種とは思えない、アクティブな動きでした。
ニタリクジラも、飛沫を上げて頭から浮上してきては、また飛沫を上げて潜っていきます。次の浮上を待ってたら、浮上してからぐいぐい泳ぎだしました。その動きは早く、追っても追っても追いつけません。こんなに早く泳ぐとは。
ニタリクジラは「貴婦人」と呼ばれるほど細くスマートなクジラですけど、波をかき分けながらずんずん泳ぐ姿は、実に男らしく(?)、豪快でした。
ハンドウイルカもしょっちゅう現れました。時に、船首波に乗ります。
大群を見つけたとき、数人づつパンガという小さいボートに分乗して追ってみました。ボートの前に横に後ろに、イルカの背ビレが続きます。目線が低いのが楽しいです。手を出すと、そのまま触れてしまいそう。
変なブロー音がすると思ったら、中にアシカも1頭混じってて、ハンドウみたいな顔をして泳いでました。
シロナガスクジラは、あちこちで見られます。船を停めて、ブローをのんびり眺めます。個体によっての動きの違いがあまりなく、どのシロナガスもゆうゆうと高いブローを繰り返しては、長い背中と細い尾ビレを見せてくれます。ペアのクジラもいれば、親子のクジラもいたし、採餌中らしきクジラもいました。
あるときは、いきなり、1頭のシロナガスが舳先に浮上して前を横切っていきました。水面下にその全身がくっきり見えました。色もかたちも、なんて美しいクジラでしょう・・・!
水面にクジラのウンチが漂ってることもあります。さすが赤いオキアミをたっぷり食べてるだけあって、真っ赤なウンチです。何回かクルーが網で掬っていて、研究者に届けるとのことでした。
マンタもよく見ました。水面下を泳ぐ姿に、最初は、マンタだ、マンタだ!と喜んでいたけど、あまりにも数が多くて、すぐに、またマンタか、と誰も騒がなくなってしまいました。
ウォッチに飽きると、パンガでマングローブの中の水路を探索したり、島に上陸して散策したり。大きなサボテンがすっくと立ち、ヒメコンドルもあちこちにいます。近くに野生のロバもいたりして、いかにもメキシコらしい景色です。歩いてると、いろいろな種類のトカゲやハミングバードも見られます。
夜は、穏やかな入り江で停泊します。星空がきれいで、ほとんど目線の低いところまで星や星雲が見えます。
ぱしゃぱしゃと音をたててサカナが水面を横切るたびに、夜光虫の塊が光ります。舳先から海を見下ろすと、何もしなくても夜光虫がキラキラしてます。風もない静かな夜は、寝てしまうのが惜しいくらいです。
いろいろなクジラたちをウォッチし続けての後半、シロナガスを見てるとき、遠くのザトウを見つけました。シロナガスを見慣れた眼には、久しぶりのザトウは黒いです。そして、尾を上げるとその裏が黒い縁取りの中の白、とメリハリがあります。
ついつい久しぶりのザトウが嬉しくて、船もそちらに向かいます。「ザトウなんて、小笠原や沖縄でさんざん見てるのにね」と言い合いながら。そしたら、このザトウったら、いかにもザトウらしくブリーチを始めました。優雅で静かなシロナガスをさんざん見てきた皆は、大歓声です。「いよぉ!」「さすが!」「それでこそ、ザトウ!」
ホント、ザトウってワクワクさせてくれますよね。憧れのシロナガスを始め、あれだけたくさんのクジラを見てきたのに、「やっぱりザトウが一番楽しいねぇ!」って、全員で顔を見合わせて笑っちゃいました。

そうはいっても、どのクジラもどのクジラも、それぞれが本当に興味深い姿を見せてくれました。満ち足りた一週間のクルーズは終わりましたが、また再訪したい、実に豊かな海でした。