冬にはハワイのどの島からでもザトウクジラを見られるようですが、中でもマウイ島は、ホエールウォッチング目当ての観光客が多く訪れます。
ハワイでは、ウォッチングルールが厳しく遵守されています。92年に私たちが訪れたときは、ルールに則って船からクジラまでの距離はかなり離れていました。近年では、警戒しなくなったクジラから船に近付いてくることもあると聞きます。
日本からハワイへは航空便も多くて行きやすいですし、穏やかな海で船酔いの心配もなく容易に多くのクジラを見られるので、ウォッチングビギナーにお勧めです。
私たちは、ディナークルーズでも子クジラのブリーチを見ましたし、また、ハレヤカラ火山観光も面白かったです。
町のあちこちにクジラグッズもあり、それらを眺めているだけでも楽しいところです。

1992年1月29日

ホテルでの朝食を済ませて、ラハイナに向かう。ホテルが集まっているカアナパリ地区からラハイナまでは無料のシャトルバスが運行していて、20分ほどで着く。
ラハイナは昔は捕鯨基地だったところで、今では土産物屋やギャラリーやレストランが軒を並べ、たくさんのツアーボートがここのハーバーから出ている。

ハーバーには小さいブースがずらっと並び、観光客をツアーに誘う。ブース前の看板には、それぞれのツアー内容・出航時刻・料金などが書かれていて、観光客は行ったり来たりしながら看板を読み比べたり、そのうしろに停まっている船を眺めたりして、これぞというツアーを選ぶ。大きい船から小さい船まで、いろいろだ。クルーザー・カタマラン・ヨット・グラスボート・・・潜水艦まである。
私たちは、8時半からのホエールウォッチングツアーを選んで乗船。40〜50フィートのカタマラン(双胴船)で、乗船料は$35+税。今日の乗客は30人くらいだけど、定員はたぶん50名〜70名だろう。キャビンがあるが、デッキが広々としているので、ほとんどの人はキャビンには入らない。ベンチに座ったりデッキの床に直接腰を下ろしたりしている。
穏やかな海を滑るように船は進む。ほどなく、ザトウクジラのブローが見える。が、船はそのクジラに寄ることもなく、そのまま走りすぎる。あれ?と思うまもなく、また次のブローが前方に見え、船はそれも素通りしていく。気が付くと、あちこちにブローがある。
やがて、派手な行動をしている群に行き当たる。どうやらメイティングポッド(交尾集団)らしい。黒い頭らしきものが水面上に突き出たと思うと、大きな飛沫が上がる。と、また黒いものが見えてばちゃばちゃやっている。わくわくするが、船は離れたところに停まってしまい、それ以上近付かない。具体的に何をどうしているのかよく解らない距離である。私たちはクジラを見慣れているので、どうやら頭らしいとか今のはフルークだなとか推測できるが、初めて見た人には何がなんだか解らないだろう。もちろんウォッチングのルールを守っているのは承知しているが、こちらとしてはせっかくアクティブな群なのに隔靴掻痒の感は否めない。
しかし、乗客の方も、クジラを前にしてもとくべつ熱心に見ているわけでもない。最初のうちは、あそこにクジラがいる、などと声を上げていた乗客たちも、じきにクジラが見えるのが当たり前になってしまい、いちいち喜ばなくなる。クジラがいても、横目に見ながらお喋りに熱中している。
遠くでブリーチしているクジラも見るが、迫力が感じられないせいか、あまり乗客のリアクションもない。クジラを見る、というより、クジラを見ながらのクルーズをのんびり楽しむ、という雰囲気のツアーである。とにかくも、凪いだ海でのクルーズは、楽ちんで心地よい。
2時間ほどでツアーを終えて、ハーバーに戻る。近くのレストランでランチを済ませてから、12時半、今度はヨットのウォッチングツアーに乗る。30フィートくらいで、乗客は15人ほど。後ろにベンチシートが2列あるが、マストの前のデッキに直接腰を下ろすことにする。出航すると、じきに帆走する。タッキングでぐっと斜めになったデッキの上で、手すりにつかまって体を保持する。帆に向かって座るとバランスが取りやすいとスタッフが教えてくれるが、その通りにすると海上のクジラがまるっきり背中側になってしまって、どうにも見にくい。
と、近くのクジラが連続ブリーチを始める。ヨットはそのクジラを見ようとするが、帆走しているのでなかなか思うに任せず、どんどん遠ざかってしまう。クルーが慌てて帆を下ろす。乗客も、クルーの邪魔にならないように身を縮めている。やっと帆を畳んだ頃には、ブリーチは終わってしまった。
また帆を広げて走っていると、今度はメイティングポッドだ。ペックスラップ・ブリーチと、アクティブである。午前の船より近付けて、少なくともどの部分を出して何をしているのかはよく解る。さすがにこれだけ近いと乗客も大喜びである。一度などは、クジラに近付きすぎてしまい、ヨットのすぐ横にクジラの顔が出た。皆、きゃーきゃーと大騒ぎ大はしゃぎだ。クルーはといえば、これは明らかにルール違反だったらしく、慌てて遠ざかろうとしているが、今度もばたばたと手こずってなかなか離れられないのは、こちらとしてはラッキーであった。
ヨットの長所も短所も、一観光客としては楽しい。このツアーでは、クジラについての説明は全くなかったが、ドリンクを無料で振る舞ってくれて、スタッフも一緒にクルーズを楽しむノリだった。真っ昼間からビール片手にのんびりホエールウォッチングなんて、贅沢な気分で嬉しい。個人的には、午前の観光船より気に入る。
下船後、ホエーラーズビレッジの博物館やギャラリーをぶらついてから、夕食を済ませてホテルへ戻る。ホテルのプールサイドのバーで、バンド演奏を聴きながら昼のウォッチングの話をしながらのナイトキャップも、また楽しからずや。