カイコウラは、ニュージーランド南島の東海岸にあります。クライストチャーチから北へ車で2時間半くらい、バスや電車でも行けます。
カイコウラでは、マッコウクジラのウォッチングツアーやハラジロカマイルカのスイミングツアーがあります。その他に、(私はやりませんでしたが)シールスイミングツアーやヘリコプターでのホエールウォッチングツアーもやっています。
クジラやイルカとの遭遇率はかなり高いようです。何回も乗っていろいろな行動を見る、というより、1回乗ればまず一通り楽しめて満足できるツアーでしょう。

1994年12月10日

カイコウラのモーテルで、朝4時半に起床。身支度を済ませて、レンタカーでWhale Watch Kaikoura Ltd.の受付に行く。集合時刻は5時半。まだ日の出前で暗いが、すでに何人も行列している。予約を確認、チケットを購入する。一人NZ$85(およそ¥5600)。ようやく白々と明けてきた中をバスに乗り、いざ出発というところへ、スタッフが乗り込んでくる。「I’m sorry,・・・」海況が悪くて出航中止だそうだ。残念。再び受付に並んで、払い戻し。ツアーは一日4回予定されているが、8時半以降のツアーが出るかは未定とのこと。
そのまま車で町を一回りする。メインストリートはあっという間に終わってしまうが、その先に小綺麗なモーテルやお洒落な家が続く。建物の壁や給水タンクの回りなど、あちこちにクジラやイルカの絵が描かれている。どれも、リアリティのある美しい絵だ。放牧されている羊が、車道のすぐ脇で草を食んでいる。遠くに連なる雪をかぶった山々が美しい。
でも、とにかく寒い。初夏とはいえ、風が冷たい。冷えた体をコーヒーとヌードルで暖める。
クジラを見るツアーが中止なら、当然イルカと泳ぐツアーも中止だろうと思いきや、こちらは予定通り出るという。本当に安全なのだろうかとちょっと心配しながら、9時にDolphin Mary Chartersの受付へ。ウインドウにはクリスマスツリーが飾られている。
支払いのあと(NZ$75。泳がないで見るだけならNZ$55)、5ミリのウエットスーツとインナースーツを渡されて、更衣室で着替える。すでに着替えはじめている人たちは、それぞれ慣れないスーツを着るのに苦労している。相撲取りのような大柄のおばさんが、うーとかふーとか唸りながら、懸命にスーツを引っ張り上げている。小学生の女の子の団体は、大はしゃぎで賑やかだ。
スーツを着終えたら、次に三点セットを受け取る。スタッフの前に足を出すと、オー、プリティ、とか言いながらフィンをよこす。おもちゃみたいに小さいフィンだけど、他の人の大きな体格を見ていると、私程度では子供並みかと納得。これでも日本の女子では背が高い方だけど・・・。マスクとスノーケルも受け取って、準備完了。
皆の身支度ができると、バスに乗る。10分ほどで少し離れた船着き場に着く。陸に揚がっている2隻のクルーザーに分乗、トラクターが船台ごとクルーザーを引っ張って、スロープから海に降ろす。
10時、10数人の乗客を乗せて、いよいよ出航する。 キャビンの座席に腰掛けて15分も走ると、早くもイルカを発見。ハラジロカマイルカの数百頭もの大群である。ここで、泳ぎ回るイルカを横目に見ながら、スタッフが初心者にスノーケリングの方法を説明する。ここをこうくわえるのよ、などと言ってる。泳げない人にはビート板を渡す。全員にフードが配られる。歌を歌うとイルカが寄って来るよともアドバイスしている。水温は13度とのこと。あらかじめ聞いていた水温より4度も低いけど、ここまで来て今さらあとには引けない。17度だろうが13度だろうが、父島から見ればてんで低いのは同じである。
プップー、というホーンの合図で、いざ水中へ。船の後部から海に入ると、なるほど冷たい。とても冷たい。すっごく冷たい。でも、死ぬほどではない(当たり前だ)。回りは緑色。透明度は3mくらいか。
イルカは、と探すまでもなく、緑色の中から現れて猛スピードですぐ横をすり抜けていく。お、とびっくりすると、すぐまた次のイルカが現れては通り過ぎていく。なにしろ、群れの真ん中である。透明度が悪いから、突然目の前にイルカが見えたと思うと、あっという間に視野を横切って見えなくなる。次から次へとびゅんびゅん泳ぎ去る中で、呆然としてしまう。歌って呼ぶ必要なんか無い。今にもぶつかりそうで怖いくらいである。彼らは餌の魚を追いかけている最中なのだろう、こちらを全く無視して、どんどん通り過ぎていく。カメラで撮ろうにも、ピントを合わせてなんかいられない。幸い、広角のレンズ付きフィルムを持っていってたので、1枚でも写っていればラッキーと、とにかくあちこちに向けてめくらめっぽうシャッターを切っとく。
群れ全体が通過してしまい、回りにイルカの姿がなくなると、プップーというホーンの合図があって船に戻る。船でイルカの群れに追いつき、また水中へ入る。
緑の水の中で、ハラジロカマイルカの白と黒の体色が美しい。頭は小さく尖っていて愛らしく、それに比べて胴回りはかなり太い。体長は2m弱だけど、体重はかなりありそう。それが、まるで弾丸のように正面から向かってくるのである。イルカの間でキラキラ銀色に光っているのは餌の魚だろうか。
中に1頭の気まぐれなヤツがいて、すり抜けていかずに、ふと私の顔を見て停まっている。誘って水中で回ってみると、つられて私の回りをぐるぐる泳ぐ。これは楽しい。互いの眼を見ながら1mくらいの距離で一緒に回転する。ハラジロカマイルカは黒目がちのせいで、優しい表情に見える。何周か円を描いてから、やがてこのイルカも行ってしまったけど、やっとここのイルカたちと挨拶を交わした気になった。
結局、このとき遊んでくれたのはこの1頭だけのようだ。潜ってイルカを誘う人が他にいなかったからかもしれない。でも、皆、ごく間近でたくさんのイルカを見られて大喜びしている。スーツを着るのが大変だった大柄のおばさんも、すっかり興奮して、ファンタスティック!!とおじさんに報告している。泳がずに船上でカメラ係をやっていたおじさんは、にこにこして聞いている。
泳ぎ終わった人には、スタッフがキャビンでホットココアをサービスしてくれる。最後まで泳いでいた私も、有り難くココアとクッキーを頂く。
そのあとは船の上からイルカたちをウォッチング。船のすぐ横を併走したり高いジャンプを続けたりで、歓声が上がる。群れは一面に広がっていて、あっちでもこっちでも跳んでいる。豊富な餌に囲まれているのが嬉しくてたまらないかのように、何回も跳んでいる。コンパクトカメラでも、簡単にジャンプしているイルカが撮れてしまう。
船上からの ドルフィンウォッチングを堪能すると、次は、岩場に寄ってニュージーランドオットセイを見る。何十頭ものオットセイが岩の上で昼寝をしている。船に慣れているようで、近付いても平気だ。時々、海面を泳いでいるオットセイが頭を突き出す。
11時半に船はスロープまで戻ってきて、トラクターに引っ張り上げられる。またバスに乗ってオフィスに帰り、三点セットを返してスーツを脱ぐ。更衣室には温水シャワーが3つほどあるが、さすがに冷えたからだで順番を待っていられず、スーツだけさっさと脱いで車でモーテルへ帰る。
モーテルでシャワーを浴びて暖まり、午後のホエールウォッチングツアーを確認、1時半のツアーが出航の予定で空きがあると聞き、急遽乗ることにする。
朝と同様、Whale Watch Kaikoura Ltd.のオフィスで受付ののち、今度こそバスで船着き場まで。陸揚げしたジェットボートに乗り込んで、オレンジ色の救命胴衣を着る。それぞれが席に腰を下ろしたところで、やはりトラクターで船台ごと引っ張り、スロープから海へ押し出す。そこでボートのエンジンを掛けて、2時出航。
ここのウォッチングボートは、32人乗りが1隻と12人乗りが4隻ある。私達が乗ったのは12人乗りの小さい方で、これがなかなかのくせもの。日本からツアーを予約したときにファクスされた注意書きに、「心臓が弱い人や腰の悪い人は乗らないように。7歳以下はお断り」とあったのが、すぐに納得された。すごいスピードでぶっ飛ばすので、とにかくボートで海面をはたくはたく。振り回されないように、必死になってボートの手すりにしがみついていなくてはならない。時たま高く持ち上げられては波間に落ちるので、油断していると、思いっきり尾てい骨を打ち付ける。膝をつかって衝撃を吸収できるように、常に中腰の姿勢で緊張していなくてはならない。
その猛スピードで突っ走りながら、ボート同志が無線で連絡をとりあっていて、比較的容易にクジラを見付けられるようだ。じきにマッコウの姿を確認する。
ここのマッコウクジラは成体の雄で、さすがに大きくて迫力がある。音を響かせながら左前方へのブローを何回か繰り返す。やがて高々とフルークを上げてゆっくりと潜っていく。
すると、よぉし、次へ行こう!とボートは走り出し、私たちは慌ててしがみついて体を緊張させる。また次のマッコウに寄って、ブローからフルークアップまで見る。
ウォッチングボートはかなりクジラの近くまで行く。大きい方のボートでクジラからの距離が30mくらい、小さいボートだと15mくらいまで寄る。ボートが何隻も近くに集まってきても、マッコウはあまり気にしていないようだ。おまけにウォッチングのヘリコプターが真上に飛んできて、その音がうるさくても、ゆうゆうとブローを繰り返している。それらによって動きを変える素振りは全く見られなかった。
ボートのドライバーは、時々、ハイドロフォンを水中に入れる。わくわくして待っているが、何も聞こえてこない。ドライバーが指でマイクの柄を叩くと、とんとんと音がする。でも、マッコウのクリック音もイルカのホイッスル音も聞こえない。すると、何の説明もないまま、またボートは走り出す。何回か入れてみても、ついに何も聞けなかった。クジラの距離からいって、クリックが聞こえそうなものだったが。いずれにせよ、ハイドロフォンを使って音を頼りにクジラの位置を探し出す必要はあまりなさそうだった。そんなことはせずとも、数隻のボートが走り回るだけでマッコウを見付けられるのだから。
次々と、全部で5頭のマッコウをウォッチングしたあと、ハラジロカマイルカの群れを追う。ひとしきりアクティブなイルカたちの動きを楽しんでから、次はニュージーランドオットセイのコロニーに向かう。
4時15分に戻って下船、バスで町まで帰り、5時に解散。
町を歩いて買い物をしたあと、シールポイントへ行く。引き潮のとき、岩の上で休憩しているニュージーランドオットセイの群れを近くで見られるらしい。駐車場に車を止めて、ごつごつした岩場を歩く。どこに彼らがいるか解らなくて、どんどん歩いたが、実は、いるときは駐車場のすぐ下にもいるらしい。このときはたまたまいなかったようで、そうとも知らずにずっと歩いてしまう。ようやく海に突き出た岩の上にオットセイの巨体を見付けてそっと寄って行くが、後ろから付いてきた西洋人のカップルがバタバタと追いかけてしまい、海に逃げられる。やれやれ。
車で友人に勧められたレストランへ行って夕食。これが美味で、すっかり満腹。満足。
モーテルに帰って、就寝。

12月11日

5時に起床。6時にWhale Watch Kaikoura Ltd.の受付を済ませて、6時半出航のツアーに乗る。2回目なので、乗船料を割り引きしてくれる(NZ$76.5)。
実は2日間でそれぞれ違うタイプのボートを予約していたのだけど、昨日の予定が狂ってしまい、大きい方への変更も利かずに、同じボートに乗る。まあ、小さいほうがよりクジラに近付けるようだし、迫力も感じられるので、どちらかというとこっちのボートのほうが好みではある。
ただ、乗り心地は本当にハードだ。海は昨日より穏やかになっているけど、やはりジェットボートは大きくはたく。走っているあいだは、懸命にボートの手すりにしがみついている。
この日も、ほどなくマッコウを見つけることができた。マッコウはやはり巨大で、悠然とブローを繰り返しては深く潜っていく。その間、皆、声も出さずに静かにクジラの動きを見守っている。フルークが海に沈むと、ドライバーが陽気に、さあ、次へ行こう!と声をかけてボートはうなりを上げる。じきに次のマッコウに寄る。大きいボートと小さいボートが集まってきてその回りでウォッチ、ヘリコプターがやってきてその上を飛ぶ。数回水中に落としたハイドロフォンは、やはり何も聞こえず。海上にはアホウドリの姿も見られた。
次々と4頭のマッコウのフルークアップを見て、ハラジロカマイルカの群れを見て、ニュージーランドオットセイのコロニーに寄って帰港。ボートのドライバーに「クジラは毎日必ず見られるの?」って尋ねたら、「イエース、エッブリダァイ!」と力強く断言していた。
9時にオフィスで解散。モーテルをチェックアウトして、町をぶらつき、ハンバーガーを買って海を眺めながらランチにする。日が射して暖かくなり、ジャケットを脱いでトレーナーだけになるが、ニュージーランド(?)の女性は、なんとノースリープのサンドレスで太股をむき出してひなたぼっこをしている。彼らにとっては、そこまで暑いのだろうか?
町の南にある鍾乳洞と小さい水族館を見てから、カイコウラに別れを告げてクライストチャーチに向かう。
道路は走りやすく、他の車は100キロ以上の速度でとばしている。つられてとばさないように、なるべくゆっくり走る。日本と同じ左側通行だけど、右折左折のルールが違うので、曲がるときには緊張する。道の両脇に牧草地が広がり、羊が多い。
空港近くの国際南極センターに寄る。なかなか面白い展示で、英語が堪能だったらもっと楽しめただろう。併設のスーベニアショップにはペンギングッズがいっぱい。本物そっくりの親子ペンギンのぬいぐるみとクジラのガラスの置物を買う。
クライストチャーチに到着、ホテルへチェックイン。