香港という大都会のすぐ近くの海で、ピンクのイルカを見られます。シナウスイロイルカという種で、本来の色は白なのだけど、香港からベトナム・タイにかけて生息しているイルカたちだけはピンクになるそうです。
野生動物のそのピンク色を見たくて、香港に行ってきました。

2002年1月20日

朝8時50分、Hong Kong Dolphinwatchというツアーのバスが九龍にあるホテルまでピックアップに来てくれます。このホテルは集合場所にもなっているので、ほかのホテルに泊まってる人たちもここに集まります。ガイドはDanielというアメリカ人で、日本語も話せました。この日の乗客は20人ほど、日本人が私たちの他に1組か2組で、あとは欧米系か中国系と思われました。
バスの中で、Danielがシナウスイロイルカについてのガイダンスをします。英語と日本語で、詳しい説明でした。40分くらいでTung Chungという港に着き、ここで船に乗ります。40人乗りくらいでしょうか、キャビンが広くてキッチンも付いてます。前と後ろにデッキが、そしてアッパーデッキがあります。乗ってすぐにお茶とクッキーのサービスがあり、朝食を取り損ねた私たちには有り難かったです。
都会に近いせいか、海上には大きな船が何隻も走ってます。貨物船もいれば、漁船もいます。海は緑色で、船が走ったあとは海中のヘドロがかき回されて茶色になります。そんな海を見ながらガイドのDanielに聞くと、イルカ好きらしく、つい最近小笠原へもスイムに来たとのこと、ついつい話が弾みます。
そうこうしているうちに、船はイルカたちがよく見られるという海域にやってきました。Brother Islandを通り、大きな発電所の前を探し、その北で目当てのイルカを発見しました。私たちがイルカの姿を確認したとたん、「ほらね、ホントにピンクでしょう?」とDanielが誇らしげに言います。確かに、綺麗なピンクです。こんなピンク色の哺乳類がいるなんて、不思議です。但し、こんなピンクになるのは成熟してからで、小さなベビーイルカはグレーですし、成熟前のヤングはピンクとグレーがまだらです。シナウスイロイルカは船首波には乗らないらしく、船はエンジンを停めてウォッチします。海の透明度は悪く、潜ったらすぐに姿が見えなくなります。それでも少しは船に寄ってくるので、皆きょろきょろしては、あっちだ!こっちに出た!と教え合います。
同じような大きさのベビーを2頭連れてるアダルトがいて「双子?」と尋ねると、Danielは首を傾げます。これまでに見たことがないようで、「小笠原で双子を見たことがある?」と逆に聞いてきます。そういえば、私たちも経験はありません。双子だとしたら、ずいぶん珍しいことでしょう。
イルカが離れるとゆっくり船を走らせたり、また別のイルカを見付けては停まり、いくつかの群を観察します。少し離れたところで、ジャンプを繰り返しているイルカもいて、ピンクの全身が水面に躍ります。
ウォッチしてるあいだにも船が通ります。今まさにイルカが潜ったばかりのその上を引かんばかりの勢いで大型船が通過していったときは、Danielは困ったようにこちらを見て肩をすくめました。海の中は、スクリュー音でさぞうるさいことでしょう。でも、引かれたかと心配したそのイルカもじきにまた顔を出してくれて、ほっとしました。
しばらくイルカの群れを見たあと、船は帰路に向かいます。帰りのキャビンでも、コーヒーとクッキーを出してくれます。また、Tシャツやキーホルダーなどのお土産も買えます。改めて見回すと、岸には大きな工場やら建物やらがたくさん並んでいて、つくづく都会だなと思いました。
12時頃に帰港し、バスでホテルまで送ってもらいました。
実は今、シナウスイロイルカは香港での生存を脅かされています。工場排水や生活排水に含まれている化学物質が彼らの体内に蓄積して、悪影響を与えているらしく、寿命が短いのです。彼らの美しいピンク色も化学物質のせいかもしれません。また、新空港建設によって、彼らの生活環境はより悪化しています。香港は建築ラッシュと見受けられましたが、今は都市としていっそうの発展を望んでるらしく、まだ野生のイルカを守ろうという気運はないようです。

香港は、日本からも近く、安いパッケージツアーもたくさんあるので、行きやすいでしょう。このツアーでの遭遇率は96%とのことで、予約は日本語でも対応してくれるそうです。ただ、毎日催行してるわけではないので、行く前に日程を確かめたほうが良いでしょう。
こんな美しい生きものが近い将来に絶滅することがないように、心から願っています。