吹き荒れていた風は、次第に収まってきました。
とはいえ、太陽はまだ顔を出してはくれません。
とびうお桟橋を出ると、沖では白波が立っているのが見えてきました。
この海況でよい出会いが訪れてくれるだろうかと、ハラハラしながらの出港です。

けれど、そんな心配は杞憂だったようです。
クジラやイルカのガイダンスを終えるか終えないかのうちに、イルカ発見との情報が入りました。
近付いてみると、烏帽子岩の波の中に8頭のミナミハンドウイルカがいました。
朝一番の出会いに興奮し、慌ただしく泳ぐ準備をします。
穏やかなところでのタイミングを狙ってエントリーしましょう。
水中では5頭のイルカが寄ってきてくれました。
中でも、ラインという若いイルカは、すぐそばまで近づいてきて、ヒトの顔を覗き込んでいきました。


イルカから離れたら、今度は別の船が近くでマンタを見ているとのことです。
潜ってしまう前にと急いで向かうと、船上からでも黒い大きな影が見えます。
時折り、胸ビレの先端が水面に出てきます。
驚かせないようにそっと海へ入ると、いました!
4mほどあるマンタが舞うように優雅に泳いでいて、空飛ぶ魔法の絨毯を思い出します。
ヒトが近付いても嫌がることなく、私たちの下で白いお腹を見せながらぐるぐる旋回してくれました。
マンタの目は腹側に付いているので、逆さになった方が海面の私たちを見やすいのでしょう。
逆にマンタにウォッチされたスイムでした。


南島へ向けて船を走らせている途中で、ザトウクジラの親子を見つけました。
今年生まれの赤ちゃんは、船の周りのあちらこちらに頻繁に浮上してきます。
うねりに揺られながらのウォッチングでしたが、子クジラの動きから目が離せません。
あとからゆっくり浮上して来た母クジラは、やおら尾を上げて潜っていきました。


南島の扇池を覗いてみたけれど、この海況では上陸はできませんでした。
雨雲がかかって霞んだハートロックの沖に、また別のザトウクジラの親子がいました。
エスコートと呼ばれるオトナのクジラが付き添っています。
海面で、エスコートはひときわ大きな呼吸を繰り返していました。


北へ走っていて、ザトウクジラの胸ビレが波間にひらひらしているのを見つけました。
何か面白い行動を見せてくれるかもしれません。
近付くとすぐに、数頭のクジラが舳先を横切っていきました。


いよいよクジラがアクティブになるかと期待していたら、右舷にミナミハンドウイルカの群れが現れたではありませんか。
視線を転じると、大きな波頭に乗るたくさんの背ビレも見えます。
ハシナガイルカです。
「どっちを見たらいいか分からない!」と嬉しい悲鳴が上がります。


ハシナガイルカはアクロバティックなジャンプをよく見せてくれますが、今日はミナミハンドウイルカも負けていません。
横腹のコバンザメを嫌がっているのでしょうか、若い一頭がしきりにジャンプを繰り返していました。


ミナミハンドウイルカがクジラから離れたので、エントリーしました。
海の中で20頭がイルカ玉をつくり、それぞれ絡み合ったり小競り合いをしたり。
野生のイルカのありのままの姿を間近でご覧いただけるスイムとなりました。
船上からは30頭以上をウォッチ、交互に舳先に訪れるハシナガイルカとの違いもよくおわかり頂けたようです。


先ほどのクジラに戻ると、メイティングポッドともよばれる繁殖集団でした。
6頭が激しい動きで追いかけっこをしています。
鼻息荒く船の横に浮上してきたり、尾ビレで水面を叩いたり、顔を水面に突き出したり。
メスを巡ってのオス達の力比べは、メンバーを入れ替えながら続きます。
群れから離れていくクジラが遠ざかりつつ上げるブローは白く細く、少し寂しそうに見えました。


動きに見とれていたら、すっかり遅くなってしまいました。
クジラたちもやや落ち着いたようですから、私たちもお昼休憩にしましょう。
兄島海域公園のキャベツビーチに船を停めます。
ゆっくりお昼を召し上がるかた、シュノーケリングでカラフルなサカナやサンゴを楽しむかた、思い思いに過ごされました。
ウエットスーツを脱ぎ捨てて、水着で泳がれているかたも!
今が一年のうちで一番水温の低い時期ですが、気分ばかりは夏を先取りです。


午後は、西島の手前に上がっているブローに向かいます。
このあたりかと停まったとたん、右舷で子クジラがブリーチです!
なんてサービス精神旺盛な子なのでしょう。
尾ビレの先まで全身が水面に出る、子クジラならではのブリーチでした。
その後もブリーチを繰り返し、尾ビレを振り回すペダンクルスラップも見せてくれました。
母クジラに呼び戻されたのか、子クジラはおとなしくなり、揃って移動を始めました。


母子を離れ、船の後ろでブローを上げていた別の群れに向かいましょう。
午前中の群れよりは大人しいけれど、やはりメイティングポッドです。
水中でブローをした泡で互いを威嚇していました。
クジラが潜ったあとには、海面に平らな丸い跡(リング)が残ります。
大きな身体が海を押し分けて潜っていくその力強さが想像できます。


クジラ、イルカ、そしてマンタとの出会いを楽しめた、充実した1日となりました。
すっきりしない空模様と海況ではありましたが、それを忘れるほどの海の生き物たちの贅沢な競演でした。(KOKORO)